feeling 1-page stories #10


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やり直し/偶然と必然
   − No Reset, No Despair −

青年は、自分の過失が原因で、最愛の女を失った。
彼はそれを悲しみ、悔やみ、嘆き、咽びながらやり直しを願った。

やり直しなど効かない。それは至極当然の事である。
だが、彼はその手段を得る事となった。

彼が運命の神を呪った時、彼の前に奇妙な老人が現れ、言った。

「そんなにやり直したいのか? ならばその力、くれてやろうぞ。」

かくして彼は忌まわしき瞬間をやり直し、最愛の女を失わない結果を手に入れた。

その後も彼は、何度もやり直したい事柄をリセットし、それを回避した。
次第に彼は些細な選択でも、最良の結果をやり直しの力で選ぶようになった。

そんな折、彼は再び、自分の過失により、最愛の女を失う。
当然彼はそれをやり直すが、どんな行動を取っても変わらない。

何十回、何百回と、考えうる過失を潰しながらその時を繰り返していた。


「ねえ。 どうして人間なんかに、リセットの力を貸してやったの?」
その何百回もの繰り返しを観測できるような高次から彼を見ている存在が言った。
「単なる実験だよ。 何度繰り返す事で人間は絶望するかとな。」
「どちらかというと私には、あなたを呪った事への仕返しにしか見えないけど。」
運命神は答えなかった。
「彼はあの女の子を、2004年のXX月XX日までに過失で殺す運命なのに。
 やり直して変えられる、その他の偶然とは違うのにね。」

1度きりの人生を歩む者には、それが必然であるか偶然であるかなど分からない。
やり直しの恩恵を知った者は、やがて必然を知り、知らぬ時とは比較にならぬ
絶望を知るだろう。


その時まで、彼は何度でも、無駄な望みを持ち、絶望の日々を過ごすだろう――


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