feeling 1-page stories #09


back to feeling_1-page_stories top


ヒトガタのヒナガタ/人形模範
   − Heart of Automaton; this modeled on human −

薄暗くて埃っぽい、研究室か作業場のような広い部屋の中。
男が、少女に銃口を向けていた。

男は込み上げる感情を抑えようとしているが、抑え切れていない。
一方、少女はその危険さが分かっていないような冷静さで男を見詰めていた。
それは極めて感情の無い、創られたような眼差しだった。
その視線に耐えかねたように、男が言った。

「僕は君を、‥‥壊す事にした。」

否、『創られたような』ではなく、『創られた』が正しい。
少女は男が創った、心を持った自動人形だった。

「何故ですか。」
「僕を愛さなかったからだ。」

男は、少女が自分を愛する事を望み、少女を創った。
しかし少女は、別の男を愛するようになってしまった。

「そうですか。」

  ガチリ。
男は拳銃の撃鉄を起こし、言った。

「‥‥最後に、言い残す事はあるかい?」
「言い残す事はありませんが、質問があります。」
「何だい?」
「あなたを愛さなかった事は、罪ですか?」
「いいや。 罪ではないさ。」
「あなた以外の誰かを愛する事は、罪ですか?」
「いいや。 それも罪ではない。」
「ならば、‥‥人形が人を愛する事は、罪ですか?」
「いいや、それは罪であるはずが無い。」

――それを望んだのは僕なのだから。
声には出さず、男は心の中で言った。

「罪を犯していないのに、私が壊されるのは何故ですか?」
「それは、‥‥僕のエゴだ。」

しばし沈黙。

「‥‥分かりました。」

少女は視線を落とした。
何かを、諦めたように。

男は、引き金に指をかけた。

響き渡る銃声。
直後、人が床に倒れる音が1つ。

「ならば私も、私のエゴで、創り主のあなたを壊し、生き続ける事にします。」

少女の手にも拳銃。それは少女が創られた時、男に渡されていた物だった。
極めて精密な動作が可能な少女は、狙いを外す事など、無かった。

動かなくなった男に、少女は言った。

「確かに私は、あなたでは無い人を愛しています。
 でも、あなたに対しても、人が親に対して抱くような、
 親しみと感謝の気持ちを持っていたのですよ?」

抑揚の無い少女の声。しかし、それを聞き慣れた者がいれば分かっただろう。
――少女が悲しんでいる事が。

少女は、悲しみを振り払うように、愛する人の元へと走っていった。


back to feeling_1-page_stories top


-- Piece of Phantom --
composed by Phant.F