学者の欠片 --Scholar--
回想の欠片、番外編。
オクトパストラベラーの主人公、学者サイラスが、いかに異質な主人公であるか、という話。
2018年にSQUARE ENIXから発売された新規IPのRPG、『OCTOPATH TRAVELER』。
8人の主人公の中で、自分が最も好みのキャラクターは学者サイラスなのであるが、彼は人間性が十分描かれたJRPGの主人公としては、とんでもなく異質なキャラクターである。
RPGの主人公といっても、物語に組み込まれないキャラクターは割と存在する。Wiz系は伝統的に主人公に対する描写はほぼ無いし、ドラクエも自分が知る限りでは主人公の人間性はあまり描写されず、周りのキャラクターが物語を構築している感がある。FFは作品によって大きく違って、4,6,7,8,9,10あたりは主人公が物語に組み込まれ、キャラクターの描写も多いが、1,3,5あたりは主人公の人間性の描写は多くない。
さて、オクトパストラベラーには主人公が8人いるが、その全てが物語を持っていて、その性格や人間性などが各章において描写されている。
人間を描く物語として、主人公には大抵の場合、以下の要素のいずれか、あるいは複数が付加される。
- 成長
- 迷いと克服
- 変化
では、オクトパストラベラーの8人の主人公はというと、以下のように考えられる。
主人公 | 成長 | 迷い | 変化 |
---|---|---|---|
オフィーリア | 〇 | △ | − |
サイラス | − | − | − |
トレサ | 〇 | − | − |
オルベリク | − | 〇 | △ |
プリムロゼ | − | 〇 | △ |
アーフェン | 〇 | 〇 | − |
テリオン | − | − | △ |
ハンイット | 〇 | − | − |
オフィーリアの物語は、成長物語と言っていい。
儀式を進める中で、彼女は成長する。
リアナの行動に一時の心の揺らぎがあるものの、ほどなくそれを振り払い、正しき道を進んでゆく。
リアナに恩を返すことで、彼女は次なるステージへ進んでいくだろう。
サイラスはいったん飛ばす。
トレサの物語は、成長と出会いの物語だ。
彼女は意外と迷わず変わらず、遠い目標をまっすぐ見つめて旅をする。
彼女の出会いは、自分の先を歩む者、自分と共に歩む者、自分の後を歩む者と、とても恵まれている。
彼女のこの旅での出会いと経験は、一生ものであろう。
オルベリクの物語は、答えを得る物語だ。
彼は物語の開始時点で、強さは完成されている。精神的にも強い。ただ一点、剣を振るう意義が揺らいでいるだけ。
彼は自分の剣が『守るための剣』であるという答えを得るが、実はそれは最初から変わっていない。
彼は「守るべきものはまだある」ことを再確認しただけ。とはいえ、今後彼が迷うことは無いだろう。そこだけが彼の変化である。
プリムロゼの物語は、過去を断ち切る物語だ。
彼女は変わらない信念を持ちつつ、自分の行いには迷い続けている。
迷って迷って、それでも信念は曲げないことを決意する。
そうして因縁を断ち切り、ようやく彼女は歩みだす。
物語を終え、彼女はやっと変われるのだ。
アーフェンの物語は、迷いと成長、王道の主人公だ。
8人の中で最も主人公しているのは彼であり、大いに悩み、乗り越え、大いに成長する。
悩んだ末に、やっぱり最初と変わらない、というのも王道の成長物語だ。
本質は変わらないが、確実に高みに上っている。同じことで悩むことはもうないだろう。
まあ彼のこと、これからもいろいろ悩んで、成長していくのだろう。
テリオンの物語は、少しだけ変わる物語だ。
彼は物語の開始時点で技術は完成されているし、迷うこともない。
裏切られて自分の技術しか信じなくなっているが、だからといって他者を恨んでいるわけでもない。
そんな彼に訪れた、小さな変化。「こいつらを、信じてみたくなった。」
結局彼は、人を頼らない事は変わっていない。たまには顔を見せるくらいしてもいいかもな、と思える相手ができただけ。それで十分なのだ。
ハンイットの物語は、あれで意外と成長物語だ。
元々狩人としての腕はいい。だが、外の世界を知らなかった。
旅を通じて外の世界を知り、語れるような狩りの経験を増やし、師匠へと近づいていく。
まあ、あんな性格なので悩まないし、生き方が変わるわけでもない。
師匠の知り合いと出会い、師匠のように仕事をこなし、いずれ師匠を超えるのだろう。
さて、話をサイラスに戻そう。
彼は学者として完成されていて、確固たる信念と生きる意味を持ち、いかなる外的要因でもそれが揺らぐことは無い。
彼の生きる意味は「知識と知恵を後世に伝えること」であり、そのために知識を蓄え、知恵を磨く。問題解決は彼の趣味のようなものだが、それを通して知識と知恵を向上させていると言ってもいい。
学院の学者という地位はその目的に便利ではあるが必須ではない。だから地位を追われたからと言って大して困りもしないし揺らぐこともない。
サイラスの物語は、彼の持つ能力を行使することに終始する。
言ってみれば「彼ができることをしている」だけなのである。
苦難を乗り越える物語ではなく、問題を解き明かす物語。
第1章の開始時点と第4章の終了時点で、彼の何が変わったか?
解決した問題の数が増えただけじゃないか!
そんな主人公である。いかに異質であるか、少しは伝わったであろうか。
composed by Phant.F